企業が期待するのは“問題解決型産業医”だ。パイオニアが語る「産業医アドバンスト研修会」設立への想い

職場の課題を解決するプロフェッショナルな産業医を育成するE-ラーニングサイト「産業医アドバンスト研修会」。エムステージも賛助会員として研修会を支援しています。
国内および外資企業での専属産業医キャリアを持ち、日本産業衛生学会にて産業医教育の責任職を長期にわたり担当されている浜口伝博先生に、これからの産業医に求められる役割と必要な知識や技能、そして「産業医アドバンスト研修会」設立への想いについてお話を伺いました。

※この記事は「Dr.Lifeなびの記事」を元に再構成したものです。

浜口伝博(はまぐち・つたひろ)
産業医科大学医学部卒業。病院勤務後、(株)東芝(1986~1995)および日本IBM(株)(1996~2005)にて専属産業医として勤務。その後、Firm & Brain(有) を設立し開業型の産業医として独立。大手企業を顧客企業としてもち、統括産業医、労働衛生コンサルタントとして活躍するかたわら政府委員や医師会、関係学会の役員を務めながら、産業医科大学をはじめ、慶應義塾大学医学部、順天堂大学医学部、東海大学医学部にて教鞭をとっている。

時代とともに変化してきた「求められる産業医」の姿

―浜口先生のご経歴を教えてください。

私が産業医科大学(旧労働省1978年設立)を卒業したのは、今から34年も前になります。大学卒業後は病院勤めの後、東芝にて専属産業医として10年間勤務、96年からは日本IBMに移って10年間在職し、統括産業医、アジアパシフィック産業医等の産業医活動をしました。

その後は産業保健コンサルティングを行うFirm&Brainを設立して、現在は開業型の産業医活動をしています。大手企業の統括産業医や企業によっては労働衛生コンサルタントとして関わらせていただいています。また、医師会や企業団体にて講師もさせていただくことがあります。 講演や研修は好きな方ですね。

―大学を卒業した当時と現在では、産業医の役割に変化はあったのでしょうか。

私が大学を卒業したころの産業医といえば、製造業では事故や災害が多くて「医師たる衛生管理者」という医療スタッフのイメージでしたし、非製造業では有害業務がないので安全衛生活動というより、企業内診療所の所長という実態がほとんどだったと思います。

それから時が経って、産業医に求められる役割や技能も時代とともに変化していくわけですが、その背景には国内の主要産業が製造業から、情報通信や金融、流通、サービス業といった第三次産業へシフトしてきたという産業構造の変化の影響があると思います。すでにオフィスワーカーがこんなに増えた現代社会では、「製造現場での安全衛生管理技能」だけでは足りなくて、人材の維持管理の観点から健康管理や人材教育への関与が産業医にも期待されるようになってきていると感じます。

実際に産業医は、過重労働対策やメンタルヘルス対策に関わらなければなりませんし、もっと積極的な関わりとして「働き方改革」や「健康経営」を進めるために、従業員のヘルスリテラシーの向上についてもアドバイスしなければなりません。職場の健康問題を計画的に対処していくことは、結局のところ人材維持に直結しますから、最終的には経営上の関心ともなります。企業の本質はやはり“人材”に尽きるわけですから。

産業医を育成する上でのOJTチャンスがほとんどない

―「産業医アドバンスト研修会」を設立した理由についてお聞かせください

職場には課題が山積していて、メタボ対策からメンタルヘルス問題、過重労働問題から復職管理、そして最近は働き方改革という具合で、幅広い活動が産業医に期待されています。このように、産業医が医学の専門家として関与する範囲は確実に増えているのですが、これらに応える産業医技能を獲得するためには、規定の教育プログラムで学んだことに加えて、実践的なノウハウや経験値がどうしても必要になります。

どうしてかというと、企業は目の前の問題を何とか「解決」したいわけですが、とくに医学問題が絡んでいるような事例になればなるほど協力を産業医に期待したいという気になっているはずです。

私は、解決指向を持って産業医スキルを獲得していく産業医を「問題解決型産業医」と呼んでいますが、法令に書かれている産業医業務だけを実施してそれ以上をしようとしない「職務提供型産業医」の時代はもう終わりを迎えていると考えています。これからは組織が抱えている産業保健課題に対して果敢に取り組んでいく専門家としての産業医が求められているのです。

実際に、そういう知識・スキルを身に付けたいと考える意欲的な産業医が若い世代に増えてきていると感じるのですが、彼らの精力的な学習意欲にこたえる団体として「産業医アドバンスト研修会(以下、「アドバ研」)」のような教育機能が絶対必要だと思った次第です。アドバ研は産業医科大学と協力関係のもとに運営されていますし、実際に全てのコンテンツは熟練した産業医たちで制作されていますので、ぜひ信頼して、安心してご参加いただきたく思います。

本年(2019年)日本医師会より10万人の認定産業医が誕生、との報道がされました。時代を画すすばらしい業績だと思います。それと同時に、これからは産業医問題も、量的問題から質的問題に移っていくのだろうと推測します。そうしたときに、産業医がもっと自身の技能を高めようとするとする際にOJTができるような機会があれば一番いいのですが、なかなかそういった場面がありません。病院でいう臨床研修現場に匹敵するような“産業医研修現場“がないのです。バーチャルではありますが、それに少しでも代わる機能を持つような研修会にしていこうと思っています。

―「問題解決型産業医」に必要なスキルや、その教育プログラムについて教えてください

産業医として現場で活躍できるためには、「法令適応力」「安全衛生力」「健診活用力」「面接指導力」「事例解決力」「教育指導力」「組織活性力」の、7つのスキルが必要だと考えています。アドバ研では、実務に役立つ教材と情報を提供することで、これらのスキルが学べるよう工夫しています。

アドバ研の大きな特長は、オンラインで自由に研修に参加できることです。“好きな時間、好きな場所“で受講が可能です。これにより「遠方在住のため参加できない」「忙しくて参加できない」といった地域や時間の制約を乗り越えることが可能になりました。この手法なら地域による教育の質の格差も生まれませんし、いつでもどこでも先生方は自己研鑽することができます。

「産業医って社会に絶対必要だよね」そう言われる社会を目指して

―「産業医アドバンスト研修会」では会員同士のコミュニケーションも可能なのでしょうか?

会員になれば、ウェブ上でクローズドな場を設計することができます。活動する地域ごとや専門領域ごと、出身大学ごとなど産業医同士でコミュニティを作ることができますし、自由に意見交換や交流をすることが可能です。

企業において産業医は“一人職場”であることが多いのですが、OJTとまではいかないまでも、こうした“生きた情報・経験・体験”を共有できる場があることで、日常の産業医活動において有益な情報が入手できるようになるでしょう。そして、自分の活動を客観的・多面的にもとらえる機会になると思います。

 ―最後に「産業医アドバンスト研修会」発足への想いをお聞かせください

アドバ研が目指すものは「独力で職場の課題を解決できる産業医」を育成すること。たとえば企業の方に、「企業活動をする上で弁護士は必要ですか?」と聞くと、もちろん「はい、絶対」という返事が返ってきます。弁護士は法律で企業が選任する義務はないんですが、絶対必要、という認識を企業は持っているわけです。 同じレベルとは言わないまでも、やっぱり「産業医って必要だよね!」と企業の方々に言われたい、という願望があります。

この状態を実現するには、産業医一人ひとりの実践力と解決力が企業側に伝わる必要があります。また、予防医学を実現するという意味で、企業内だけでなく一般の方々にも産業医の存在と重要性をもっと知ってもらいたいと思います。そのためには、最前線で活動する産業医の先生方のスキルアップと活動力が欠かせないのです。

これらの想いが「産業医アドバンスト研修会」に詰まっています。