休復職にかかわる課題解決。その先に、『好循環社会』を実現し、誰もが意欲を持って働ける世界をつくる。株式会社リウェルの挑戦

株式会社リウェル 代表取締役 鈴木さん
2003年、株式会社エムステージ(旧メディカル・ステージ)の創業に参画。医師紹介事業に携わった後、2016年に産業保健事業部の立ち上げを担う。
2022年4月、メンタルヘルス不調者の再発防止、精神障害者の就労をミッションとして、株式会社リウェルを設立。

――まずは鈴木さんのご経歴からお伺いさせてください!
エムステージの創業から参画され、この度リウェルを設立された鈴木さんですが、医療ヘルスケア領域に携わるようになられたきっかけは何だったのでしょうか

実家が農家なこともあって、食や、そこからつながる健康・ヘルスケアに関心を持っていました。大学では生命科学を専攻し、新卒では研究職としてお茶製品が主力の清涼飲料水メーカーに就職しました。お茶は漢方的な側面もあって、食の中でも特に健康に近いと考えていたからです。

その後、社会への貢献性と自身の成長できる環境を求める中で、医師紹介や開業コンサルティング事業といった医療支援の業界に携わるようになりました。そこでグループCEOの杉田さんと出会い、エムステージ(旧メディカル・ステージ)の創業に参画することになります。当時、杉田さんは27歳、私が37歳頃のことです。

――医師紹介業に携わるようになって、業界のあり方に大きな違和感を感じられたとか

求職支援は本来、医師が入職し、その後、その医療機関で活躍することを目的とするのが正しい姿です。ですが実態は、とにかく高い金額でマッチングさせることが目的になってしまっており、医師の不都合な情報は隠したまま紹介をおこなったりすることが当然のように行われていました。
携わる人の問題と合わせて、提供する情報についても当時は非常に問題が多い状況でした。
例えば、求人票は1つの病院につき、内科も産婦人科も脳神経外科も、全ての科目で一つしかありませんでした。

そこで、私たちは業界で先駆けて、それぞれの科目ごとに分けた求人提供をはじめました。常勤求人と非常勤求人でも必要な情報が異なるため求人票を分け、『Dr.転職なび』と『Dr.アルなび』のように、求人媒体も分けました。
スポット非常勤では「明日の医師がいない」といった緊急性の高い状況もあるため、差し迫った求人でもスムーズにマッチングが行えるようにシステムを整備しました。
そのようにして、医師紹介業において何がベストなマッチングを実現できるのか、そのために私たちはどうあるべきなのか、を形にしていきました。

――現在では業界のスタンダードとなっている求人票の仕様やシステムマッチングは、当社からはじまった取り組みだったのですね。
その後、産業保健事業部を立ち上げられますが、どのような経緯があったのでしょうか。

医師紹介では、臨床医に比べて数は少ないものの産業医の常勤紹介も行っていたのですが、なかなか上手くマッチングが出来ていませんでした。企業と産業医をつなぐ経路がなかったからです。産業医として活躍したいという先生達の思いをどうにかつなげられないかと考えて、産業医について調べ始めました。そしてその中で、産業医を取り巻く課題を知ることになるのです。

産業医の選任義務のある事業場は全国に16万事業場ありますが、常勤の専属産業医が必要な事業場はそのうちの2000~3000事業場ほどで、ほとんどが非常勤の嘱託産業医の選任義務がある従業員1000人以下の事業場でした。その多くで、産業医が適切に機能していない状況が分かったのです。調べた当時の感覚値では、7割近くの事業場が法令に則った産業医業務をおこなえていない名義貸し状態でした。

――著書『企業にはびこる 名ばかり産業医(幻冬舎)』で言及されていらっしゃった問題ですね

名義貸しになる大きな理由は、企業と医師の利益が合致してしまっていたということです。

企業は産業医を選任し、法令遵守に努めなければいけません。ですが、当時は医師が今よりも少ない時代であり、産業医免許を持っていても、臨床業務で多忙な医師は産業医業務を行う時間がありませんでした。そこで、企業は名義だけを借りることで、費用を抑えて産業医を選任(法令遵守)することができ、医師も名義を貸すことで困っている企業を助け、報酬までもらえるという関係性が成立していたのです。
これによって害を被るのは、健康が守られない従業員です。ですが当時は「モーレツ社員」の時代であり、健康についての社会のリテラシーは低い状況だったため、従業員もこの状況に異を唱えることなく、見過ごされていたのです。
日本医師会の調査では、資格を持っているが産業医として活動していない産業医の60%が「本業が多忙で時間・余裕がない」、35%が「産業医として働く事業場がない」、20%が「経験がなく、やり方がわからない」と回答しています。

こうした名義貸しになる理由が見つかったことで、それであれば、この課題を解決することで、本来あるべき姿に、正しいものにしていけると考え、産業医事業をスタートしました。
今では産業医事業部は産業保健事業部となり、企業の産業保健に関するあらゆる課題を解決する事業部に成長しています。

――2022年、株式会社リウェルを設立され、2023年3月よりリワーク支援サービスの提供を開始されます。リウェル設立の背景にはどのようなお考えがあったのか教えてください

実は当初は、医療機関の設立を想定していました。精神障害や健康診断への対応ができる医療機関を設立することで、産業保健と医療のスムーズな連携を実現できるのではないかと考えてのことです。

事業を検討する時には、必ず「なぜ、この事業を自分達がやるべきなのか」を自らに問うのですが、これだけメンタルへルスに注目が集まりながら精神障害が増加し続けている状況に関しては、現在の精神医療のアプローチに解決すべき問題があるのではないか、産業保健を担う自分たちだからこそやるべきなのではないか、と考えていました。

また手法としては、オンラインを取り入れた方法論がまだなかったことから、オンラインを活用した事業の可能性を検討していました。とくに注目したのは、企業の健康保健室が減ってきているという状況です。こうした働く人が気軽にアクセスできる医療の窓口が減っている状況と合わせて、メンタルへルス不調者は気力が低下していることもあり、自ら進んで病院に行きたがらないこともあります。健康保健室の機能を外部機関として設立し、オンライン診療として提供することで、必要性の高い人を早めに医療につなぐことが出来るのではないかと考えたのです。

――当初は医療機関の設立に向けて動き出された中で、そこからどのようにリワーク支援事業に至ったのでしょうか

医療機関設立に向けてリサーチを続けていたある時、産業医の先生との情報交換で、「企業の就労支援(リワーク)活用の問題」を知ることになります。うつ病で休職した人の2人に1人は復帰後に再休職してしまうという現状があり、複数回のメンタルへルス不調を重ねてしまうことで、重症化し、完治しにくい状況が生まれていたのです。

一度目のメンタルへルス不調は、状況により誰もがなりうるものです。大切なのは、その後、二度目の不調を再発させないための取り組みです。ですが、そこに大きな課題がある。
まずはこの課題解決を、私たちが担うべきだと強く思ったのです。

――メンタルへルス不調から復職しても、2人に1人が再休職してしまう。その背景には、どのような問題があるのでしょうか

大きな問題は、リワーク施設の数が圧倒的に足りていないということです。

近年、精神疾患の患者数は約 610 万人以上にも上り、同時にメンタルヘルス不調による休職者数も年間約30万人と年々増加傾向にあります。
ですが30万人の休職者に対して、現在、リワークを受けられている人数は全国で2~3万人程度で、残りの27万人は支援を受けられないまま復職しているのです。
公的施設としては職業リハビリテーションセンターが各都道府県に1施設程度(大都市圏除く)設置されていて、就労支援を行っているのですが、1つの施設が一度に受け入れられる人数は20~30人程度です。3か月程度のプログラムが多いので、そうすると年間で80~120人しか受け入れられないという状況なのです。民間施設も少しずつ増えてきていますが、一度に受け入れられる人数はやはり20~30人程度となります。
そこでリウェルでは、施設サービスと合わせて、オンラインを活用したリワークサービスによって、誰もがリワークを受けられる体制を作ることにしました。

ひとりでも多く再発する人を減らすために、リワークの価値は非常に大きなものです。まだまだ新しい概念ですが、近年は「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」の認定にかかわる「健康経営度調査」の調査項目にもなるなど、少しずつ認知が広がってきています。

――リウェルのサービスの強みを教えてください

オンラインを活用したリワーク支援があることは大きな強みです。これまで、施設サービスをコロナ禍においてオンラインで実施していた外部の例はあるのですが、オンラインを前提としたサービスはありませんでした。圧倒的に数が足りていない中で、施設サービスだけでなくオンラインを活用して全国どこからでもリワーク支援を受けられることができます。

また、オンラインリワークを企業向けのサービスとしていることも特徴です。復職を受け入れる企業側との情報連携が、スムーズな復職にあたり重要となりますが、これまでは休職中の従業員の状況を企業はなかなか把握できずにいました。リウェルでは、専用の管理システム『Wellco』を通じて、関係者間で休職者の状況について情報共有を行うことができます。

休職者の中には、気分の落ち込みにより自ら積極的に治療に通ったり情報を集めたりすることが難しい方もいますが、企業から必要な支援の案内をしてもらうことで、支援につなげられる人を増やすことができます。

プログラムは精神科医兼産業医の監修のもとに作成し、専門的な研修を受講した精神保健・心理専門職のスタッフによる支援を実現している点も大きな強みです。

――リワークを広めることで、どのような課題解決を目指していますか

リワークにより、ひとりでも多くの再休職を防ぎたいと考えています。そして再休職を無くすことで、現在の『悪循環社会』を断ち切り、『好循環社会』の実現を目指しています。

メンタルへルス不調者が出た時、その人が退職してしまえば、一見、その会社から問題は過ぎ去ったかに見えます。
しかし、その退職者は、再発リスクを抱えたまま転職し、再発し、また退職して他の企業に再々発のリスクを抱えたまま転職することになります。このようにして、社会に再発リスク者が増加し、企業が再発リスク者と知らずに採用する確率は年々高まっていると考えられます。リワーク支援のない現状では、採用後に再発を招き、結果、社会に離職者が増える『悪循環社会』になっていると言えるのではないでしょうか。

メンタルへルス不調者に再発防止策を徹底することは、社会全体から再発リスク者を減らすことになり、結果、離職に至らない『好循環社会』をつくり出すことに繋がると考えています。

――好循環社会の実現の先に、リウェルが目指す世界観を教えてください

誰もが健康に働く社会の実現。それも、ただ健康なだけでなく“意欲を持って働ける“世界観の実現です。

その背景には、周囲に対して我慢してしまったり(声を上げられない)、自分を過信してしまったり(自分を分かっていない)という、個人の問題もあります。そうした個人の問題もオープンに語り合える世界観の上に、こうした健康に、意欲を持って働ける世界は作れるのだと考えています。

これからは、ダイバーシティ&インクルージョンの時代です。ダイバーシティというと、外国人を思い浮かべる方もいると思いますが、日本人の中でも障がい者や女性、高齢者など、多様性を認めることが重要になります。それは「会社の枠に個人をはめる」のではなく、「個人を個人として認め、尊重する」ということです。そうすることで、一人ひとりが活躍できる機会を増やすことができます。
時代は変わり、労働力人口の減少も進んでいる中で、今後企業においてもますます重要な考えになっていくと思われます。

――働くことは、人生の中で多くの時間を占めますので、誰もが“意欲を持って働ける”世界は、多くの人の幸せや生きがいにつながりますね

働くことは、絶対に、お金のためだけではありません。
自分が少しでも「楽しい」「貢献している」と思えることが大切です。それが自分の生きがいや存在価値、人生そのものにつながっていくと考えています。
もちろん、ワークライフの中で、家族が共に過ごす時間は大切です。ですが働くことも、人がよりよく生きていく上で、とても大切なことなのです。
仕事において我慢して、疲弊して、休職してしまう。そんなことがあってはなりません。

もう一つ、私はリワークを受けることによって、休職期間を「自分を知る機会」にしていただきたいと考えています。リワークはメンタルへルス不調の再発防止が目的ですが、同時に、プログラムを通して自己理解をしてほしいのです。

休職期間を単に自宅で何もせずに過ごしてしまうと、それはあまり前向きな機会とはなりません。ですが自らを振り返り「自分はどんな人間なのか?」「自分はどうすれば活躍できるのか?」を知ることで、リワークは休職者が「さらにパワーアップする」「さらにハッピーになる」ための機会となります。
そして、それを会社と共有し、相互に理解しあう機会にすることができれば、お互いを尊重して、再び活躍できる社会をつくっていくことができます。

リワークを通して、ひとりでも多くの休職者をなくしたい。
そしてその先に、『好循環社会』を実現し、誰もが意欲を持って働ける世界をつくることを目指して、この休復職にかかわる課題解決に取り組んでまいります。