TOPメッセージ:2020年を振り返って

新型コロナウィルスの流行により、社会が大きく変わった2020年。私たちの事業領域である医療業界は、その最前線で戦う現場として最も影響を受けた業界のひとつとなりました。エムステージグループ グループCEOの杉田に、2020年の振り返りと2021年に向けての指針を聞きました。
株式会社エムステージホールディングス 代表取締役 兼 グループCEO 杉田 雄二(すぎた ゆうじ)
2003年 株式会社メディカル・ステージ(現・株式会社エムステージ)を設立。2019年 持続可能な医療の未来への貢献を掲げ、事業所向け産業保健支援、医療人材総合サービス、医療経営支援を展開するエムステージグループとしてホールディングス化を行う。
「医療」と「組織」の持続可能性
新型コロナウィルス感染症が、私たちの生活や仕事にも多大な影響を及ぼす中、最前線で日々奮闘して下さっている医療従事者の皆様に心より感謝いたします。
社会基盤を揺るがすこの状況は、エムステージにおいても未曾有の事態でありました。
中国での新型コロナのニュースが報道され始めたのが2019年の年末頃、そして2020年の1月には日本でも新型コロナが確認され始めましたが、危機を認識して対策に動き出したのは2月に入ってからです。
以前から、SARSや鳥インフルエンザなどが流行するたびに、いずれ感染症の世界的な大流行が起こる危険性は警告されていました。にもかかわらず、1月の時点で春先の事態や現状を未来予測することができなかった、この1ヶ月の遅れは、経営者として大いに反省しているところです。
危機を認識してからは、まずは社員の健康を第一に考えながら、私たちのテーマである『持続可能性』を「医療」と「組織」の両面で成し得るために動き始めました。
『持続可能性』の追求はエムステージが創業時から掲げてきた使命です。それでも、緊急事態宣言が発令され、社会が大きく変化していく中で、医療をあたりまえに回し続けることの大切さを以前から訴えてきた私たちですら、その意味を過小評価していたことに気づきました。
今、どうして社会が不安になっているかー。それは、コロナの感染が拡大していることはもちろんですが、その先に、経済・社会活動全体に影響を及ぼす医療崩壊を恐れているからでしょう。医療の持続性を支えることはもっともっと大きな使命だったのだと、その意味を、自分たちの存在意義を、改めて考える1年だったと感じています。

2つの医療崩壊:いかに現場の医療をまわしていくか
医療の持続可能性を考えるにあたっては、いかに医療をまわしていくかという目の前の現場課題と、医療を中長期的に提供していくための経営課題の観点があります。
まずは現場の医療という観点ですが、医療を支えているのは、やはり医師や看護師といった医療者です。新型コロナ禍も、自身が感染しないように、クラスターを発生させないようにという重圧の中、最前線で戦ってくださっています。ただでさえ人手不足の医療業界ですが、ここに不十分な病院のバックアップ体制への不信や医療崩壊による過重労働といった問題が起これば、疲弊した医療者が離脱して、更に状況は深刻さを増してしまいます。
今年、エムステージはこれまでの医師の採用支援から、医師・コメディカル・経営幹部・事務職といった医療機関で活躍するすべての人材採用を支援するサービス拡充をおこないました。2021年も現場を支えるコメディカル領域を強化していくことで、医療者の確保に貢献していきたいと考えています。
2つの医療崩壊:中長期的に医療を提供できる経営体制
一方で、中長期的に組織を持続させ、地域で医療を提供していくには医療経営の視点が非常に重要となります。
採用に関わるコストをいかに圧縮するかという課題を解決するために、コメディカル採用サービスをこれまでの人材紹介とは異なる成果報酬型広告サービスにしたことは、私たちにとってもチャレンジです。また経営が厳しい時代だからこそ、精通したプロの経営者が必要であるという思いから2019年12月にスタートした事務職の経営層向けの紹介も順調に伸ばしています。
少子高齢化が進み社会保障費が増大する日本では、診療報酬の抑制が続き、 経営意識を持たなければ医療機関の運営は立ち行かなくなってきています。今後もこの状況が加速する中、 2019年は医療経営支援事業の(株)エムステージマネジメントソリューションズも立ち上げました。 しかし新型コロナの流行によって予想よりも早く、医療業界は大きなダメージを受けることとなってしまいました。
医療の再編は今後、加速していくと考えられますが、その中で初期診療の受け皿が減ってしまえば、地域の患者が困ると同時に、ますます二次救急や三次救急の医療機関へ負担がかかる状況になってしまいます。この地域医療のともしびを絶やさないために、2020年10月に開始したのが、医業承継サポートです。
さらに2021年は医療機関と企業をつなげ、医療機関に経営の知恵を提供するビジネスマッチングサービスの展開を考えています。

厳しい状況ではありますが、今年は間違いなくオンライン診療を含めたIT導入や経営の効率化策が促進される元年になります。この危機を前向きに、チャンスととらえ、経営に対する医療界のレベルがあがることも期待しています。私たちはそうした医療界に対して、しっかりと施策をまわせる経営人材の確保、経営の質を上げるための民間サービスの提供、そして地域医療を絶やさないための承継、といった事業で、持続可能な医療を実現するためのかけ橋となることを目指します。医療経営支援事業の社会的意義は大きく、早急に実らせていかなければいけない1年になると考えています。
注目が高まる産業保健
近年の働き方改革や健康経営、SDGsの推進といった時流の中で、社会的活動への関心の高い企業を中心に産業保健への注目は高まっていました。それが2020年には、感染症対策が事業や企業価値にまで影響を与える経営課題となったことで、これまで産業保健に目を向けていなかった企業も含めて、産業保健機能の強化をおこなう企業は大幅に増加しています。企業の対策が不十分であれば、それは社会的な信用低下につながり、社内でも従業員の信用低下、不安の増大がメンタル不調などによる生産性低下につながります。エムステージの産業保健サービスへのお問い合わせも、コロナ禍以降1.5倍となっており、中身のある産業保健活動を展開したいという声が寄せられています。
私たちは産業保健サービスを広める先に、人々が健康で、なるべく病気にならない世界をつくりたいという思いがあります。医療にかかる人を減らすことは、医療者が不足する中でいかに医療をまわしていくか、増大する一方の医療費をどう抑制していくか、という問題に対するひとつの答えになると考えています。
また、そもそも医療にはお金がかかります。その財源となる税収入をつくるためには、企業が健康に生産性高く働きつづけられる環境を整えていかなければいけません。産業保健活動を、労働問題などのリスクヘッジと考える経営者もいるかと思いますが、それは違います。生産性の高い組織をつくり、どう企業の活力に変えていくか―産業保健の本質は、ここにあると思います。
私たちはこの本質にコミットし、産業医や産業保健師の雇用だけでなく、それが正しく回るためのサポートサービスやインフラの提供、労働衛生コンサルタントなどの産業保健を支えるその他の専門家サービス、オンライン相談といった時流にあわせたしくみを、より拡充する1年にしていきます。

企業としてのバランス感覚が問われている
激動の2020年でしたが、エムステージの今年の決算としては売上高20.1億円(昨対120%)と、創業以来の増収をなんとか継続することができました。
緊急事態宣言下において事業は大きな影響を受けましたし、在宅によるリモートワークの導入など就業環境にも変化がありました。そのような中でも増収を実現できたことは、社員一人ひとりが使命感と危機感をもって取り組んでくれた結果の、大きな意味のあるものだと思っています。
また在宅勤務などの変化では、対面でのコミュニケーションがもたらす精神的安定や、雑談から生まれるアイディアの大切さも身に染みました。新しい価値観が生まれると、以前の価値観に固執したり、逆に新しい価値観にひっぱられすぎたりということが起こります。しかしその中には変えたほうがよいものと、変えずに大切にすべきものが存在するはずです。組織においても、事業においても、それを見極める企業としてのバランス感覚が問われていると感じています。
これからも私たちは、柔軟な頭を持って企業としてのバランスを見極め、求められている成長分野に積極的に投資をしていきます。そして組織として持続していくために、社会に貢献を続けていくために、私たちは2021年も『持続可能性』への挑戦を続けてまいります。