医療経営士1級取得者が語る日本医療の課題とエムステージの役割

エムステージでは多くの社員に医療経営士の取得を推奨しています。これは医師でもなく、医療機関に勤めているわけでもない私たちが「当事者」として医療に関わるため、そして、医師や医療機関の方々と目線を合わせて話をするための取り組みのひとつ。入社時から勉強を始め、医療経営士3級、2級、1級と取得を進めていきます。
2017年に医療機関での勤務実績がなくても取得が可能になった1級ですが、エムステージはこれまでに4名の取得者を輩出しています。
今回はそんな医療経営士1級取得者のうちの2人に、日本医療が抱える課題や、その解決に取り組む自分たちの仕事について話を聞きました。
MHR事業部 安枝さん
2010年エムステージに入社。名古屋支社での勤務を経て、東京本社に異動後は営業企画、人事、マーケティングを歴任。現在はMHR事業部長として、医師のキャリア支援・医療機関の採用支援事業を担う。医療経営士1級取得者。
MHR事業部 吉丸さん
2016年エムステージに入社。MHR事業部、福岡支社・那覇支社マネージャー。医療経営士1級取得者。
医師の柔軟な働き方が地域医療を救う
――お二人の業務内容を教えてください。
安枝:医療機関向け採用支援・医師向けキャリア支援サービスを担うMHR事業部の事業部長をしています。MHR事業部は北海道から沖縄まで全国11拠点で展開していますが、その全国の支社を取りまとめ、戦略を練ったり方針を判断する立場にあります。
吉丸:MHR事業部において、福岡支社と那覇支社のマネージャーをしています。2支社が目標を達成するためのマネジメントが中心ですが、私自身も現場に出向き、医師や医療機関の方にお会いする機会もあります。
――日頃から医療業界を知る立場にいるお二人にとって、特に強く意識している医療業界の課題は何ですか?
安枝:やはり、医療費の増大に尽きるのではないでしょうか。診療報酬の方針も医療費の削減を目指すなど、国としても注力している課題です。
吉丸:私は元々、エムステージに入社する前は東京で働いていたのですが、地方出身で、東京で働いていた身として「地方創生」に興味がありました。例えば、政治や経済の東京一極集中問題。そして、医療で言えば地方の医師不足の問題。エムステージで福岡支社での勤務を希望したのも、自分の故郷で医療機関の医師不足解決に貢献できればという想いがあったからなんです。

――実際に地域医療を目の当たりにして感じることはありますか。
吉丸:地方は大学医局も含め、医師が足りない。大学医局が人を出せないから、地方の関連病院も医師が足りない。医師がいなければ医療機関は救急も受け入れられないし、オペもできない。もし救急で医療機関に運ばれたとき、その先に診てくれる医師がちゃんといるかどうか、患者は不安です。地方に住む人の安心・安全のためにも、医師が活き活きと働くためにも、首都圏以外の医療機関にちゃんと医師が集まる仕組みが必要だと思うんです。
安枝:僕が以前名古屋支社にいた時も、地域医療の問題は実感としてありました。例えば、三重県西部では救急の輪番が回せない地域がありました。輪番の医療病院がない日があり、結果、車で一時間近くかかる別エリアまで救急車が行かざるを得ない。他にも産婦人科医がいない地域も多いです。安心して子どもが産めない、万が一の時に救急が機能しないという地域は実際にありますよ。
吉丸:そうなんですよね。私たちは実際、医師不足で悩む医療機関に医師をご紹介することも多くありますから、エムステージが地域医療に貢献しているという実感はストレートに湧きますね。
医療に限らず、他の業界にも地方の問題はあって、時には解決を目指したポジティブなニュースを聞きますよね。企業が拠点を地方に移して地域経済に貢献していたり、行政では中央省庁を地方に移転させて地方での仕事と人の循環を促したり。医療においても、もっとできることはあると思うんですよ。医師がもっと柔軟な働き方ができるようにするとか。
私が出会った医師のお知り合いで、週末は東北で非常勤、普段は九州の病院で常勤というワークスタイルの先生がいるという話を聞いたことがあります。他にも、最近だと、関東の医師を九州南部の救急病院に月1回の非常勤としてご紹介しました。先生からは月1回の勤務が救急の勉強になるという感想をいただき、医療機関側にとっては医師不足の解消になる、とても良いマッチングだったと思います。
――都市部で働く医師にも地方で働くニーズはあるんですか?
安枝:ニーズを掘り起こせばありますよ。地域医療への興味から地方に転職をして、常勤で勤める先生もいらっしゃいます。ですが、月1回、週1回という非常勤の形でも、地方に出てきてくださる医師がいれば、地方の医療が回りだすんです。
吉丸:都市部の医師が非常勤で地方の医療機関に勤務する案件をつくっていくというのは、私たちにできる地域医療への貢献の形だと思います。
「妄想」がアウトプットの研鑚になる
――課題解決に貢献していく実感のある仕事ですね。医療課題を理解し、解決していくにあたって、お二人が研鑚していることはありますか?
安枝:医療に限らず、さまざまな分野のさまざまな情報に常に触れるようにしています。書籍も自分の食指が動くものを素直に読む。当たり前ですがニュースをみる。そして、妄想します。

吉丸:え、妄想ですか……
安枝:例えば、医療機関のサイトに病床数や規模などのデータがありますよね。それを読んで、その医療機関の戦略を妄想してみるんです。他にも、診療報酬改定の話題を知った時に、エムステージのクライアントはこれを踏まえてどんな戦略をとるんだろうと、妄想する。
僕は徒歩通勤なので、歩いている間は貴重な妄想時間です。インプットしてきた情報を持って、妄想の形でアウトプットしてみる。そんな思考がクセ付けされていて、自分の仕事において検証することだとか、決断することだとかの役に立ちます。うちの社長も何か考えながらオフィスの中を歩き回ることがあるじゃないですか。あれ、妄想しているんだと思うんですよね。歩き回った後の社長の一言って、ものすごい切れ味なので。
――情報を材料にした妄想で、アウトプットの研鑚をしてるということですね。吉丸さんはどのような研鑚をしていますか。
吉丸:私は研鑚というほどではないのですが、色んな人のドキュメント、ノンフィクションを読んだり観たりしています。人材サービスに携わっていると多くの医師の人生に関わることになりますし、福岡支社・那覇支社のマネジメントをするにも多くの支社メンバーの思考に触れます。そんな時に価値観や考え方の多様性を否定してしまわないように、日ごろから色んな人の人生を知りたいと思っているんです。
私は割と自己中で、自分の考えに自信を持っているタイプの人間で(笑)そういうヤツだからこそ、自分の考えと違う他者の価値観を大切にするよう意識しています。
――吉丸さんと言えば、医療経営士の資格を3級から1級までストレートに最短で取得していったという話も聞きました。
吉丸:医療経営士の勉強も自己研鑽のひとつですね。3級を2017年3月に、2級を同年7月に、そして1級を同年12月に取得しました。勉強してきたことは、医師や医療機関の方とコミュニケーションを取るときに、知識のベースとして活かされているかなと思います。ですが、自分自身が実務で医療経営に関わっているわけではないので、直接的に役立っているという感覚はないです。
ただ、医療経営を学んだことで知識の基礎がしっかりしたため、普段医師や医療機関から、あるいはニュースから知る情報の深さや感度が上がっています。また、日々の仕事となるチームビルディングやマネジメント、人材育成について、課題解決や仮説検証をする時にも医療経営士の知識は役立ちます。医療も企業も、経営の軸は同じなんだなと。

安枝:僕も吉丸さんと同じ考えです。僕が医療経営士1級を取得したのも吉丸さんと同じ2017年12月。当時、僕はマーケティング部門にいて、戦略を立てて打ち手を打っていくという仕事をしていました。医療経営士ではマーケティングにおけるフレームワークも学んでいたので、実務に活かすことができました。
ただ、僕にはもうひとつ目論見があって。マーケティング部門にいると、名古屋支社で人材サービス部門にいた頃とは違って、医療業界の情報が自然には耳に入ってこなくなるんです。だから、医療経営士の勉強で情報のキャッチアップをしようと思っていました。先ほど話した「妄想」も、深めるためには知識が必要ですから。
専門医かジェネラリストか。それぞれのプロフェッショナルの形
――お二人とも、医療経営士の資格取得が目的なのではなく、勉強することで身に着けられる内容が重要だったんですね。最後に、お二人はそれぞれ何のプロフェッショナルでありたいと思いますか?
吉丸:私は人材ビジネスのプロフェッショナルでありたい。エムステージに入社する前からなので、人材ビジネスに入ってかれこれ15年以上です。薬剤師や医師を対象にしたサービスを経験してきたので、ほとんどが医療人材ですね。特に医療人材の紹介事業に自分自身の強みを発揮できると思うので、肩肘張らずに自分がプロフェッショナルである領域で、人の役に立ちたいと思います。
安枝:僕はひとつの領域を突き詰めたキャリアじゃないので、何かのプロフェッショナルだと胸を張って言うことが難しいです。新卒で入社した企業では広告営業。その次は雑誌編集をやって、また営業に戻る。エムステージに入社してからはリクルーティングアドバイザー(医療機関の採用支援担当)、キャリアプランナー(医師の求職支援担当)、営業企画、人事、マーケティング、そして今の事業部長……
吉丸:すごい。なんでもできますね。
安枝:医師に例えるなら専門医ではなくジェネラリスト。これまでの経験で培った幅広い情報を元にジャッジをすることのプロフェッショナルなのかもしれません。ジャッジのスピードにはまだ自分の中で課題感があるので、もっと実践を積んでプロフェッショナルを極めたいです。
――お二人とも、ありがとうございました。
医師のキャリア支援、医療機関の採用支援に関わってきたからこそ、真に迫る医療の課題。そして、それに向き合う二人のプロフェッショナルな仕事を垣間見た対談でした。