受入患者数日本随一!湘南鎌倉総合病院救命救急センターの救急救命士の役割<前編>

医療法人沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院救命救急センターは、「運ばれて来た患者は100%受け入れる」という信条のもと、新生児から高齢者まで年間約43,000人の救急患者(そのうち、救急搬送は約14,000人)を受け入れています。なぜこのような膨大な患者数の受け入れが可能なのか。その背景には、20名の救急救命医をフォローして専門的な応急処置や救急調整業務を行う、救急救命士の存在があると言います。
そこで、救命救急センター長 山上浩医師と、同救命救急センタ―救急調整室 渡部圭介救急救命士を取材。救命救急センターにおける救急救命士の存在についてお話を伺いました。

※この記事は「Dr.Lifeなび」の記事を元に再構成したものです。

山上 浩(やまがみ ひろし)
湘南鎌倉総合病院救命救急センター長。2003年福井大学医学部卒業後、内科医勤務を経て、2006年湘南鎌倉総合病院救急総合診療科へ所属。日本救急医学会指導医、日本救急医学会救急科専門医。

渡部 圭介(わたなべ けいすけ)
救急救命士。湘南鎌倉総合病院救命救急センター 救急調整室所属。2001年に救急救命士登録後、民間企業や消防での勤務歴を経て現職。

救急車を断ることがストレスだった、自分の考える“医師像”に近づくために救命の世界へ

山上浩医師

-これまでのご経歴を教えてください

山上医師:私は、2003年に医学部を卒業したあと、内科医として働いていました。ところが、ある日、勤務していた病院で当直をしたとき、日常的に救急車の受け入れを断っている光景を目の当たりにしたんです。もちろん、「人手が足りない」「ベッドが足りない」という正当な理由でした。

当直勤務に入るたびに「診てあげたい」と思う気持ちがどんどん高まる中で、実際には搬送を断っている自分がいて、随分と葛藤しました。そしていつしか、救急車を断ること自体がストレスになっていったんです。それと同時に、自分はなんのために医者になったのだろうと、それから先の自分の医師人生を真剣に考え直し始めました。間違ったことをしていたとは思っていませんが、自分の思い描いていた医師像とは、かなりズレがあることに気がついたんですね。

どんな疾患の人でも受け入れられる環境に行って、どんな患者も治療できる医者になりたい。そう決めた私は、2006年、当院の救急総合診療科で救急医のトレーニングを開始しました。

渡部圭介救急救命士

渡部救急救命士:私は、今年で救急救命士歴18年を迎えました。救急救命士の資格を取得したあと、民間企業に勤務したり、消防に勤務したりしました。震災が起こった時には、医療用ヘリに乗って現地で急病人や怪我人の救護をしたこともありましたね。そして、ある御縁がきっかけで現在は当院の救命救急センターで働いています。

救急救命士として働く上では、やはりできるだけたくさんの患者さんのために働きたいと思っていますので、受け入れ患者数の多い病院で働けることは、毎日刺激的です。そして、この病院に来てから救急救命士の仕事の意味や意義について、深く考えることが多くなりました。

当初、ERに救急救命士を採用したのは、「トリアージ」が目的だった

-救急救命士をERに採用するようになったのは、いつ頃ですか?また、どのような業務内容で勤務されているのでしょうか?

山上医師:救急救命士を採用するようになったのは、2011年頃だったと記憶しています。当初は、現在のような救急調整室として機能していたわけではなく、トリアージが目的でした。救急患者の受け入れを断らない当院では、当時から患者さんが溢れかえることが多く、診療の優先度をつけるスタッフとして、急性期疾患に明るい救急救命士を採用しようと考えたのです。当時、消防における救急救命士の採用が飽和状態だったのも、医療機関への就職を後押しする要因のひとつになったのだと考えます。

しかし、2014年に診療報酬改定が行われ、医師または看護師によるトリアージにのみ、診療報酬がつけられることになりました。それを機に、ER内で救急救命士の働き方を再度見直し、2015年「救急調整室」として正式に立ち上げた、というわけです。

現在の救急救命士の業務内容は、急患の受け入れ・転院の調整の電話応対、医師や看護師の補助業務、病院救急車の出動など、多岐にわたっています。2019年4月現在、救急調整室所属の救急救命士は8名。応募者も年々増えていて、求人倍率は2倍以上になりました。

救急救命士の採用条件は「コミュニケーション能力」

-先生は救急救命士の採用活動にも携わっていらっしゃるのですね。ERで働く救急救命士には、どんな素養が必要なのでしょうか?

山上医師:コミュニケーション能力が高いこと。本当にこの一言に尽きます。知識が多いとか、頭が良いとか、そういうことは二の次ですね。先ほども申し上げたように、当ERでは救急車の受け入れ調整や他院からの転院調整など、すべてのやり取りを救急調整室が担っています。特別な場合を除いて、医師や看護師は電話応対もしていません。電話の相手が医師であっても看護師であってもその他病院関係者であっても、相手が何を求めているかを察し漏れなく情報を共有するスキルがないと、どんなに知識があっても使い物になりません。

また、丁寧な言葉遣い。これも大事ですよね。緊迫・混乱しがちな救急医療の現場において、相手に不快な思いをさせることがないだろうと思える人材とは「同じチームで働きたい」と思えます。医師や救急救命士である前に、ひとりの社会人ですからね。常識に欠けていないか。高い倫理観を持っているか。やはりそれが一番大事なことなのだと思います。

渡部救急救命士:山上先生のおっしゃる通りですね。我々の仕事では、ファーストコンタクトが電話であることがほとんどです。加えて、我々の仕事の先には医療において一番の要となる「診察」や「治療」があります。そのため、電話口の相手が誰であっても、患者さんの情報や状況を短時間で正確にすり合わせるスキルがないと仕事は成立しません。

また、医師や看護師が、すぐに治療に取り掛かれる環境や、治療だけに専念できる環境を作り出すことも救急救命士の大事な役割です。そのためには、指示を待つのではなく、自ら考え主体的に動ける救命士を育てる必要があり、それを実現していくために、新人救命士には「できるだけ多くの現場を経験し、できるだけ多くの人と関わるように」と教えています。

▼後編へ続く
受入患者数日本随一!湘南鎌倉総合病院救命救急センターの救急救命士の役割<後編>